2016年06月15日(水)
【自活研・小林理事長の自転車コラムその53】~駐輪というデザインについて考える~
自転車やクルマは、たいていの場合、使っている時間より停車している時間の方が長い。
トラックやタクシーのように停まっていては商売にならないクルマや、メッセンジャーの自転車などは例外として、いわゆるママチャリなどは一日に15分、長くても30分も走れば良い方だ。
メーカーは走る能力の開発には熱心だが、駐車する機能についてはほとんど無関心だった。
子どもを二人乗せる自転車の開発が必要になり、そこでようやくがっちりと幅が広く、比較的軽い力で女性にも立てられるスタンドが登場した。
それでも子どもを乗せたり降ろしたりするときにふらつき、転倒する危険は相当に高い。
狭い駐輪場ではより難しい。スタンドの接地面積を大きくすれば少しは安定性は高まる。
お母さんとしては安心したい気持ちもあって、よりましな自転車を選ぼうとするのだが、よく考えてみると根本的な危険性が除去されているわけではない。
子どもは相変わらず高い位置に座らされ、ヘルメットをかぶっていたとしても転倒して頭をぶつけるとひどいことになる。
二輪の宿命として、時速10kmを超えないと安定しないが、歩道では歩行者や他の自転車、電信柱やガードレールなど障害物だらけ。
警察が言うように「自転車は原則車道通行」は法的にはそうなのだろうが、クルマのドライバーは信じられないので車道は怖くて走れない。
自分がクルマを運転しているときを想像すれば、ドライバーを信じられないのはしごくもっともなことである。
欧州の自転車にはスタンドがついていないものが少なくない。
駐輪することを考えていないように思うかもしれないが、駐輪機能を自転車それぞれにもたせるのではなく、駐輪施設のほうに準備するという思想でできている。
街なかや駅前など、自転車を立てたままロックできる設備があちこちにあって、過剰なまでに太いワイヤーロックでつながれている。
日本に比べて自転車価格が平均で3倍以上もするので、放置などとんでもない。
とにかく盗まれない工夫に余念がない。
実際に目撃したのだが、クイックレリーズ付きの前輪は、駐輪しておくと簡単に盗まれるので、欧州では駐輪するときは前輪を外して持ち歩く自転車乗りがいるのである。
自転車はやたらに盗まれやすい品物である。
わが国の犯罪でもっとも多いのは窃盗だが、その大半が自転車泥棒である。
犯人は8%くらいしか検挙されない。ところが、盗まれた自転車は3割以上が持ち主の手元に帰ってくる。
盗んで目的地まで行き、そこで放置するので、自治体が税金を使って撤去し、防犯登録から持ち主を割り出して引き取りにくるよう連絡する。
事前に盗難届が出されていれば、撤去費用や保管料が免除されてめでたく愛車と再会となる。つまり、自転車泥棒の多くが「ちょっと借りただけ」という罪の意識のない連中の仕業である。
検挙される自転車窃盗犯の約6割が少年だというから、放置してある自転車は日本人のモラルやマナーを堕落させる元凶だと言われても仕方がない。
教育的配慮からも、自転車の駐輪管理はしっかりやるべきだが、実は安心して駐輪できない環境が、自転車の健全な活用を妨げる原因になっていることも認識すべきだろう。
ここ7、8年、自転車ブームが続いている。
リーマンショックまでは、100万円近い自転車が売れていた。
最近はさすがにそんなバカ高いものは少なくなったが、10万円以上、30万円くらいまでのロードレーサーや本格的なマウンテンバイクなどの人気は高い。
アレックス・モールトンに代表される超高級ミニベロも人気だ。
こうした高級車を軒下に簡単な鍵をかけて置いておくのは不安である。
折り畳みできる高級ミニベロなら、狭い住宅の玄関に置くこともできる。
問題は出掛けた先での駐輪である。国や自治体の努力、民間企業の頑張りがあって、駐輪場があちこちに整備され、放置自転車はピーク時の8分の1以下に減少している。
しかし、これらの駐輪場に超高級車を置くのは考えものだ。
管理人が常駐する駐輪場に二重に鍵をかけて停めておいた愛車を、盗まれた例がたくさんある。
人間が当てにならないとしたら、最新型の機械式無人ラックはどうだろう。
地下式や上空にロボットアームで自転車を格納してしまうから、盗もうにも機械のなかに入り込むことができない。
盗むこともいたずらされることもない。だが、大問題がある。機械はカーボン製のフロントフォークをガチッと銜えてガンッと運んでいく。
デリケートな調整などおかまいなしである。
メーカーに聞くと「多分大丈夫ですよ」というのだが、「100万円の自転車を入れて、大丈夫という確認をしたんですか?」という私の問いには絶句だった。
あたりまえで、圧倒的多数のママチャリを対象に開発したわけで、そんな超高級車を相手にしているほど暇も金もないというのが本音だろう。
この課題を乗り越えられなければ、自転車文化は日本に降臨しない、と私は思う。
クルマ並みに車道を堂々と走り、どこへ行っても盗難やいたずらの心配なしに駐輪することができ、コインシャワーや着替えのスペースが点在し、自転車という世紀の発明品で地球と自分の健康を守ろうという人々を大切にする社会がこれから必要になる。
長期ビジョンを持つ政治家がいれば、そんなに難しいことではない。
残念なことに、そして、腹の中が怒りで熱くなるのだが、こうした政策を具現化しようとしているのは我が日本ではなくて、韓国なのである。
当時、参議院選挙が終わったばかりだったが、一票を投じたい政治家は?と聞かれたら、イ・ミョンバクと答えてしまいそうだった。
【季刊誌「PARKING TODAY(ライジング出版)」より改訂して掲載】