COLUMN コラム

【自活研・小林理事長の自転車コラムその51】~安全快適な自転車利用環境創出ガイドラインの提言を終えて~

 2012年4月に書いたコラムである。自転車政策の変遷を記録するために再掲しておく。
 自転車の走行空間の必要性が言われるようになり、整備のためのガイドラインを作ることになった。
ガイドラインを作るには、考え方を整理しなければならんということで、警察庁と国土交通省が「安全で快適な自転車利用環境の創出に向けた検討委員会」を設置したのが、2011年の11月。
委員長は埼玉大学大学院の久保田尚教授で、4回の委員会を経て2012年の3月、年度末ぎりぎりに提言をまとめた。
堅苦しいタイトルでは提言を読む気にならない、と委員で第3代の自転車名人・勝間和代さんが「みんなにやさしい自転車環境」という表題を提案し、やさしいイメージにはなったが、中身は決してやさしくない。

 そもそも、ガイドラインを作るための提言という二重構造はいかにもお役所的だが、これまで道路や交通の専門家と道路設計のコンサルタントを集めて設計指針をまとめていたやり方に比べると、広範な意見が盛り込まれていて大きな前進である。
前述の勝間さん、自転車アイドルの嚆矢とも言うべき絹代さん、金沢市の自転車走行指導レーンを創りだした「地球の友・金沢」の三国成子さん、ジャーナリストでお母さん代表の細川珠生さんと委員10名中4名が女性である。これだけでも画期的だ。
さらに、通例、委員のほとんどを占める大学教授は、委員長の久保田先生、東工大の屋井鉄雄教授、徳島大の山中英生教授の3人だけ。しかも、この3人は道路と交通分野で誰もが認める日本のトップ。
ありがたいことに自転車についてもとても明るい。そして自転車博士第一号の住信基礎研究所研究理事の古倉宗治さん、財団法人全日本交通安全協会専務理事の中澤見山さんと私という布陣である。

 さまざまな意見が出て、折り合わないところもあり、私にとって100%満足な結果ではないが、これまでの経過を考えると驚くほど大胆に踏み込んだ内容であることは認めていただけると思う。
どうせ、為政者側に都合良く書かれた作文だなどと高をくくらず、ぜひじっくり読んで欲しい。
提言全文は簡単にダウンロード出来る。委員会の資料や発言録などもすべて両省のサイトで公開してある。

 提言に書かれているとおりのことが全部実現したら、道路交通の大革命と呼ぶにふさわしいと自負している。
委員会の表舞台からはうかがい知れないが、提言の一行一行は、両省の若手官僚たちの徹夜の連続となった議論と、調整の結果である。ある意味で言いたい放題の委員の思いを、どこまで反映させられるか、そのためにデータの解釈や分析を巡って、どれほど真剣な議論が行われたか、筆舌に尽くしがたいものがある。
とはいえ、この提言を踏まえて、夏の終わり頃には両省で「安全で快適な自転車利用環境を創出するためのガイドライン」をまとめ、全国の関連機関に示されることになる。
それぞれの地域で、どこまで提言を活かせるのか、注目していかなければならない。

 これまでも、自転車をどう走らせるかについてはさまざまな議論があった。
東京都などは道路の建設について「歩道部では全線でゆとりある自転車走行空間、歩行空間の確保や緑豊かな植栽帯の整備など、沿道環境にも配慮した整備」とか、「沿道の状況に応じて植樹帯、自転車歩行車道、副道等を組み合わせ、緑豊かな安全で快適な歩行者空間を確保」と、幅の広い歩道に自転車を走らせる方針を示していた。
どの都市でも道路空間に余裕は少なく、クルマを円滑に走らせることを優先すれば、自転車を歩道へ、と考えるのは当然だ。
そこへ、今回の提言である。私たちは提言の前提として「自転車は「車両」であり、車道を通行することが大原則である。
なお、例外として、歩道を徐行により通行できるのは、(中略)自転車の通行の安全を確保するためにやむを得ない場合に限る」を基本的な考え方として、検討を行った。
歩道通行を前提として整備計画を立ててきた全国の自治体は、提言にさぞかし当惑したに違いない。

 さっそくあちこちから否定的な声が聞こえてきた。
まず、東京とは道路事情が違う、というものである。
東京都ですらいったん公表した整備方針をどうしたらいいのか思考停止状態に陥っているのだから、変化についていけない自治体が多いのもやむを得ない。
委員会でも、危険な車道なんか走れない、という強い意見が出された。
これに対して、三国さんが金沢市で車道を安全にして自転車も歩行者も快適な状態をつくりだした事実を述べて、車道を安全にするために提言するのであって、違法状態を追認して自転車の活用を妨げることは避けるべきだという結論に導いた。
変化に抵抗を感じる人たちが圧倒的に多い現状を考えると、提言の趣旨が広く受け入れられるまでには長い時間が必要になりそうだ。

 まず、自転車の道をつくってね、それもネットワーク化してね、という一番最初の提言が受け入れられるかが実は大問題である。
自転車道や自転車レーンが、交差点でブツ切れになって、ネットワークになっていない例は枚挙に暇がない。
交差点を安全な状態にするのは非常に難しい。
これまでは、難しいことは後回し、先送りにするという必殺技が横行してきた。
提言では、もっとも処理が難しい相互通行の自転車道を「捨てる」決断をした。
自転車がクルマと同じように完全に左側通行であれば、交差点の処理はシンプルになる。
これからは交差点に近づくと自転車レーンが無くなるというバカげたことは少なくなる・・・だろうなあ。
横断帯をつくって歩行者用信号に従え、なんてことも無くなる・・・だろうなあ。

 すべては夏・・・ひょっとしたら秋口に発表される「ガイドライン」次第である(結局、2012年11月27日に公表された)。
心配や懸念材料は山ほどあるが、いまは八つ当たりせずに、じっと行く末を見守ることにしよう。

【季刊誌「PARKING TODAY(ライジング出版)」より改訂して掲載】

 

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