COLUMN コラム

【自活研・小林理事長の自転車コラムその20】~音がしない自転車にびっくり?!~

 古い話だが、2010年1月に惜しまれながら閉鎖した東京・千駄ヶ谷のサイクルスクエア北参道で、半年間コンシェルジュを務めた佐々木恵美さんから聞いた話である。
 サイクルスクエアでは、5万円以上するブランド自転車の試乗が人気だった。一般の店では、なかなか高級車の試乗ができない。年に一度のサイクルモードでも、人気車の試乗には長蛇の列ができる。自転車ブームに押されて、清水の舞台から飛び降りてみようかというひとたちで、休日はいつも予約でいっぱいだった。びっくりしたのは、試乗を終えた人たちの口から結構な頻度で飛び出した言葉だと言う。

「この自転車、音がしない!」

 きちんと整備して貸し出しているのだから当然のことだ。だが、何人ものひとから、特にママチャリしか乗ったことがないと思われる女性たちから同じ言葉を聞くうちに、佐々木さんはハッと気がついた。世の中の自転車からは様々な異音が出る、特にブレーキをかけるとキーッとか、ギーッと音が出るのが常識なのだ。
 また、「ブレーキが効きすぎて怖い」という声もたびたび耳にしたという。まともな自転車は、車体も軽いから、たしかにブレーキの効きが良い。右ブレーキは、伝達ワイヤの距離が短く、後ろブレーキより早く強くかかるからスピードが出ているときに前輪に強くブレーキをかけると、前方宙返りをしてしまうことすらある。だから、運転者はお尻を後方に突き出し、意識的に後ろブレーキを少し早めに強くかけて、安定した姿勢のまま停止する必要がある。
 一方、ママチャリは自重が重い上に、ブレーキの効きもスポーツタイプに比べると良くない。整備していないと、効きはどんどん悪くなるからブレーキレバーはめいっぱい握らなければ止まらない。止まらないからママチャリではスピードを出さない。この感覚に慣れたひとが、整備されたスポーツ車に乗ると、軽くブレーキをかけたつもりでも前輪がロックし、大慌てすることになる。

 自転車とは、あちこちから異音がでて、ブレーキが効かないもの。この常識をくつがえさなければ、自転車の未来はない。何度も言うが、自転車は生命を乗せている。売る側は、何も知らない消費者にもっとその根本をアピールすべきだ。危なっかしい粗悪品を整備もせずに乗り回せば、運転者だけではない、罪もない誰かを巻き添えにする危険がつきまとう。

【月刊サイクルビジネスより改訂して再掲】

PAGE TOP