COLUMN コラム

【自活研・小林理事長の自転車コラムその68】~東京を変えようという若者の挑戦~

2013年9月に2020年のオリンピック・パラリンピックの東京開催が決まった3ヶ月後、猪瀬東京都知事は医療法人との不透明な資金の流れが明るみに出て、あっけなく辞任し、急遽選挙となった。
三年後の改選時期までに候補者たちに自転車政策を盛り込むよう運動していくつもりでのんびりしていた私は焦った。ひとりの若い仲間が、いまやらなくてどうする、と立ち上がり、全候補者に自転車政策を掲げてもらうための署名運動を展開し、当選した当時の舛添知事を含む主な候補者たちに自転車を政策テーマとして取り上げさせる成果を挙げた。
 その彼がまた動き始めたのは、4年前。自転車通行空間を2倍にすると公言する舛添知事に、もっと頑張れと言う都民の声を届けようと仕掛けを考えた。都の計画を見ると、ぶつ切れのネットワーク計画の見直しは行われず、100kmちょっとしかない自転車通行空間のほとんど9割以上は歩道上にある。
これを2倍にしたところで「革命」とまで言われたパリやロンドンの足下にも及ばない。「世界一の東京」と言うのなら、もっと大胆に使える道を整備してくれ、そう望む都民の声を集め、なんなら整備のための寄付も募って「声と資金」を知事に届けようと言うのである。

『+1 LANE PROJECT(プラス・ワンレーン・プロジェクト)』と名付けた運動は、道にもう一車線、自転車のための1レーンを追加する提言にたくさんの「いいね!」を集めて、実現を東京都に迫るものだ。私たちが欲しいのは、歩行者に迷惑をかけず、クルマやバスの邪魔にならない自転車レーンである。
事故防止の観点からは、クルマの邪魔にならない空間ではドライバーが自転車の存在を認知しないので、むしろ邪魔で危なっかしいと感じるくらいでないと危険である。欧州の一部にあるような独立した自転車道は理想なのだが、歩道通行が一般的なため左側一方通行が守られない現実と、短い間隔で信号がたくさんある環境では、交差点処理がむつかしい。まず、クルマと同じ方向に走り、交差点での安全確認を常識化し、自転車道の標準を一方通行にするため、速く走る人たちのための自転車レーンを普及することが必要である。実際、98カ所のモデル道の検証データでも、事故の軽減率は自転車道より自転車レーンの方が高いのである。
 都の動きの鈍さに比べると、国道や一部の区・市道のチャレンジはめざましい。特に、東京国道事務所は玉川通り(国道246号線)の世田谷区部分や春日通り(国道254号線)の文京区部分でバスと自転車の共用レーンや自転車レーンを数キロにわたって整備し始めた。他の後塵を浴びるなどということは首都東京のプライドが許さない!と奮起してくれることを祈りつつ、プロジェクトを牽引する小林正樹くん(姓は同じだが血縁はない)に尻を蹴飛ばされてひたすら「いいね!」を集めたのだが、またもや不祥事が明るみにでて、舛添知事はあえなく辞任。出直し選挙で一大ブームを巻き起こした小池百合子新都知事は、直後の新党結成にからんで大失速。自転車活用推進どころか、議会運営が自転車操業状態である。
見かねたのか、東京警視庁がナビマークを都内の道路に描き始め、19年度内には1000kmを超え、まだまだ増やしていく方針だとか。
 ともあれ、若者の挑戦は、形を変えて私たちの生活に定着しつつある。いま、彼は新しい街乗り自転車を開発中で、もうすぐお目見えとの噂だ。いつもワクワクさせてくれる若者たちに感謝である。

【月刊サイクルビジネスより改訂して再掲】
 
 

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