COLUMN コラム

【自活研・小林理事長の自転車コラムその27】~悪循環は止められるか?!~

 昨年4月、国交省と警察庁が共同で設置した委員会が、前年11月から半年がかりで議論してきた「みんなにやさしい自転車環境ーー安全で快適な自転車利用環境の創出に向けた提言ーー」をまとめて公表した時の感想である。13年前、自転車活用推進研究会を創設して、故・石田久雄とふたりで始めた「悪循環をくいとめる」活動が、ようやく小さな蕾になった。そんな気がした。
 日本経済新聞を辞めて環境ジャーナリストとして活躍していた石田を、私に引き合わせてくれたのは、週刊『エネルギーと環境』の主筆である清水文雄さんだ。出会って程なく、私たちは、21世紀には自転車が一定の役割を果たす、という確信で一致した。
エネルギー枯渇と高齢化による社会構造の変化は、都市の交通体系を大きく変えるにちがいない。そのとき、クルマは新エネルギーで空を飛んでいるか? いや、中心はきっと歩行だろう。そして1トン以上もある箱に人間を詰め込んで移動するやり方に疑問を抱く人たちが増えるに違いない。となると、自転車は技術革新され、もっと快適で安全な移動手段として都市交通の重要な要素になる。
その時、自転車をどのように活用すれば良いのか、今のうちにそのノウハウを研究し提言することが必要になる。私たちは仲間を募り、まったくの手探りで研究会を創り、さまざまな人たちに教えを請う作業を始めた。

 その結果、私たちは我が国における自転車が、歩行者以上車両未満の中途半端な存在とされ、出口の見えない悪循環に陥っている現実に気づかされることになった。燃料が高騰し、貧困が珍しくなくなる時代が来て、クルマが担っている移動・運搬の一部を自転車に代替させることが必要になっても、いまの道路と交通環境では、自転車は危険であり、場合によっては不快な道具でしかない。しかも、存在理由が正しく評価されず、利用者のモラルは低下している。歩行者やクルマから邪魔にされ、道路も用意されず、ルールも不合理なまま放置されている。
 逆に、安全で快適な道路交通環境を整備できれば自転車はもっと利用される。利用が増えて、安全意識が高まればより快適な環境も実現できる。良い循環に転換するきっかけを捜しあぐねていた09年に、石田は67歳で逝ってしまった。その後、3.11以降に起きた自転車を取り巻く変革を、石田はどう評価するだろう。いつも辛辣だが正鵠を射ていた盟友の言葉を思い出しながら、提言は所詮「言うだけ」、実現されなければ花は咲かない、本番はこれからだ、と気を引き締めることにする。
 
【月刊サイクルビジネスより改訂して再掲】

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