COLUMN コラム

【自活研・小林理事長の自転車コラムその45】~魔の「札の辻」に矢羽根マーク登場!~

 2013年春、それまで長い間、自転車を無視した交差点として悪名の高かった、東京都港区の国道15号線と都道301・409号線が交差する「札の辻」が変わった。

 新橋あたりから川崎方面に延びる大幹線道路に、都心から芝浦方面に向かう巨大都道が斜めに交差し、12時間で6万台以上のクルマが行き交い、交通量の多い都内の交差点ランキングでは30位以内に入る要衝である。
江戸時代には御府内の端にあたり、人通りが多いので高札を掲げて幕府の命令を知らせる場所だった。
名前からして由緒正しい歴史的な場所だ。

 この交差点の問題は、田町駅から下り車線を行くと芝浦方面に向かう左折専用レーンがあり、赤信号の後でまず左矢印の信号が出て左折するクルマがスタートし、次にそのまま青丸の信号に切り替わるため、直進しようとする自転車が安全に進行するタイミングが見あたらないという危険な設計であったことだ。
しかも、横断歩道橋が設置されていて、直進方向には横断歩道がない。歩道派の自転車族は横断防止柵に遮られる。
それでも、ここを通る自転車は左折するクルマの切れ目を狙って、果敢に直進する。
3年ほど前に数えてみた。朝の30分間にやってきた20台の自転車のうち、なんと17台はクルマに警笛を鳴らされたりしながら走っていて、まさに手に汗を握る思いで眺めた記憶がある。

 NPO自転車活用推進研究会理事でもあるツーキニスト疋田を筆頭に、私たちは「札の辻」をことあるごとに口を極めてののしり、改善を懇願してきた。
2012年春に都と警視庁、国道事務所がついに重い腰を上げ、自転車利用環境創出ガイドラインの提言委員でもある交通工学の泰斗、東工大の屋井鉄雄教授を会長とする「自転車通行環境整備課題検討ワーキンググループ」を設置。
ほぼ1年の検討期間を経て、交差点路面に自転車ナビ(誘導)ラインを敷き、信号表示を変更した。

 やってみれば当然のことに思えるのだが、信号が変わる途中に「直進の矢印」を加えただけのことである。
車道左端で左折のクルマをやり過ごした自転車は、信号の矢印によって左折が止まるタイミングで直進できるようになった。

 都ではナビラインと呼んでいる矢羽根マークは、交差点を自転車が安全に通過する上で切り札になり得るアイディアだが、Y字形交差点などでどのように自転車を誘導するかなど、課題も残る。
Y字の左右両方向を直進と考えて設計すると、自転車は立ち往生する。
一方を右左折とする交差点内の線引き変更を行えば、「札の辻」の改善策が適用できるかもしれない。
既成概念に凝り固まった関係者の理解を得るために、あの「札の辻」でもできたぞ!という高札を全国に掲げたいと思っている。

 【月刊サイクルビジネスより改訂して再掲】

 

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