COLUMN コラム

【自活研・小林理事長の自転車コラムその31】~真の総合自転車展を構築するために~

 チーム・キープ・レフト運動を推進している母体は、いまや日本で唯一の大規模自転車ショーとなった「サイクルモード」事務局である。世界にはユーロバイク、インターバイクといった自転車の展示会があるが、サイクルモードは販売店だけでなく、一般の客が「試乗」できるユニークな展示会として注目された。
 実は、2007年までは東京自転車展(最後は東京バイクビズ2007と改名)が18年にわたって、どちらかというと販売店や業界向けの展示会を開催してきた。新興のサイクルモードは「試乗」を売り物に、直接ユーザーに向けて新製品をアピールするやり方で、あっという間に動員数を拡大し、商談会を中心に展開していた旧勢力を瞬く間に席巻した。
 ディーラーとユーザーが混在し、商談や実売まで行う自転車の大規模展示会は、台湾、上海、ソウルなどに拠点を移し、日本ではサイクルモード一人勝ちの様相である。
 私たちNPO自転車活用推進研究会は、サイクルモードの東京(幕張を東京というのは、ディズニーリゾートに東京を付けて呼ぶのと同じ意味である)進出時に、NHKニュースで取り上げる際の「利用者側」として登場するなど、当初間接的に支援した経緯がある。交通社会の再構築や自転車市民権を模索する研究会の活動が、本来スポーツ指向ではないため、07、08と2年間は関与しなかった。09年にサイクルモード事務局から、自転車の健全な乗り方も視野に置きたいと連絡があった。超高級スポーツ車を乗り回す人は増えたが、信号無視、逆走など信じがたい危険走行も横行し始めた。ブームになり愛好者が増えれば、勘違いする人も増える。放置自転車が迷惑だ、というレベルから、歩車道をかまわず爆走する社会の危険物にのし上がった。自転車が楽しいぞ、かっこいいぞ、というだけのイベントでは社会から手ひどい指弾を受けかねない。サイクルモード主催側の要請を受け、最低限守って欲しいルールとして左側通行を呼びかけ、チームキープレフトを結成して、キャンペーンしてきた。いかんせん、来場者約6万人のごく一部に訴えるのでは目覚ましい進展は期待できない。やはり、必要なのは日常的にユーザーと接する販売店での、きちんとした教育だ。
 ブームの時期こそ、自転車文化を醸成するためのディーラーの意識改革のチャンスだった。しかし、第3次の自転車ブームは、安全に走ることができる道路空間があいかわらず未整備なことと、リーマンショック以来の不況がたたって沈静化しつつある。加熱していた高級車市場は人材不足で、知ったかぶりの客の相談に的確に答える店員の育成がなかなか追いつかない現状も垣間見える。そして、それぞれのメーカーが独自の展示会を開催する傾向も出てきて、一同に並んだ多種多様な製品を見比べるという本来の展示会の機能を達成しにくくなってきた。
 自転車環境全体が端境期に入ったと同じく、サイクルモードも転換期にさしかかっている。業界を結束させ、真の総合自転車展を再構築すべく、創設の原点に立ち返る必要がありそうだ。

 【月刊サイクルビジネスより改訂して再掲】

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